お産を経験したことのあるおかあさん、これからお産を経験しようとしているあなた、皆が一度は耳にしたことのある「陣痛促進剤」、このお薬はどのようなものなのでしょうか。どのように使うものなのでしょうか。一緒に考えてみましょう。
「陣痛促進剤」と呼ばれるお薬には次の二種類あります。
分娩間近の妊産婦様の鼻の奥、脳の最下部である脳下垂体と呼ばれる部位から分泌されるホルモンです。選択的に子宮の筋肉や、乳房の筋肉に作用して、陣痛を起こしたり射乳を起こしたりします。
身体のなかで自然に創られるホルモンです。筋肉に直接働きかけて筋肉が収縮する力を強める働きをします。子宮の筋肉に作用させれば陣痛を起こしたり陣痛を強めたりします。
これらはいずれも 自然な分娩・出産のためにお母さんの身体の中で創られて子宮に作用し、分娩・出産を進めるために必要不可欠なホルモンなのです。ですから「陣痛促進剤」と呼ばれているお薬そのものは 特に身体に危険なものではありません。使う必要もないのに濫用したり、過剰に使用した時、あるいは稀に特異的に過剰反応を起した時などにお母さん(母体)や赤ちゃん(胎児)に危険を及ぼす可能性が出てきますが、これらを上手に使う事は逆にお母さんや赤ちゃんの安全のために必要なことでもあるのです。
では どういうときに「陣痛促進剤」を使う適応となるのか、言い換えれば「使わなければならないのか」考えてみましょう。一言でいえば、お薬の力を借りてでもお産をしてしまわなければお母さんや赤ちゃんが具合悪くなる危険がある場合です。具体的には次の5つの場合です。
予定日より二週間以上も分娩が遅れ、胎盤機能が低下して胎児にとってそれ以上子宮内に居ることがデメリットとなる可能性がある場合。
破水したのに陣痛が起こらず、子宮内に居る胎児に感染の危険がせまりつつある場合。
子宮胎盤系の血流不足により胎盤機能が低下して、それ以上胎児が子宮内に居ることがデメリットになるような場合。
予定日超過や妊娠中毒症、喫煙などの原因により胎盤の機能が低下して、それ以上胎児が子宮内に居ることがデメリットとなるような場合。
陣痛が開始して分娩が始まったのに、陣痛が弱すぎるために分娩が遷延して母体の疲労を招いたり、長時間経過したのでは母児共に危険がせまる可能性がある場合。
ほとんどのお母さんにとってお産というものは、特に異常がなければ何もしなくても妊娠37週から41週までの間に自然に陣痛が起こり一日内外で元気な赤ちゃんが産まれてくるものです。しかし約10%位のお母さんについては、なんらかのお手伝いをしてあげなければ元気な赤ちゃんを生むことが出来ないのです。
ところが、自分がそうなのかどうか自分ではわかりません。ですから、もし自分がそうなった時でも安心してお産が出来るように専門のお医者さんや、助産婦、看護婦さんのもとで妊娠中からお産まで、さらには産後までも診てもらっているわけです。そういう訳で、本当は、お産のときに「陣痛促進剤」を使うかどうか心配する前にお薬を使わないで済むように、煙草を吸わない、妊娠中毒症や微弱陣痛にならないように太りすぎない、といった自己管理が大切なのです。
そして、「陣痛促進剤」というのは前述の5つの項目にお母さんが当てはまる場合に自然な陣痛を起こす呼び水として、または補助として使用するお薬だと理解してください。決してお薬だけで陣痛が起こり分娩が進行するものではありません。
わたしたちは「陣痛促進剤」について以上の様に考えております。当ひたちなか母と子の病院でお産される皆様にご理解いただいて安心してお産が迎えられる手助けになりましたら幸いに存じます。心配なこと不安なことはどうぞ遠慮無くご相談ください。あなたにとって「良いお産」とはなにか、一緒に考えていきましょう。