今回、あなたは大切な赤ちゃんを宿し、生まれくる命に大きな期待をかけながらここまでたどり着いてきました。「よーし頑張るゾー」と張切っているあなた、大丈夫なのかしらと心配しているあなたなどいろいろかと思います。
しかし、お産は基本的には自然の営みである訳ですから、決してあわてたり過度に緊張したりしないで、徐々に強くなってくるであろう陣痛に身をまかせ、分娩台に上って「さぁ頑張りましょう」と言われるまでは決して力を入れず、赤ちゃんを守ってあげることだけ考えながら陣痛をやり過してあげてください。
さて、お母様となるあなたのため、また生れ来る赤ちゃんのため、今後の分娩経過の中で以下の様な処置が施される可能性があります。その都度説明いたしますが、とりあえずこれらの処置の概略を下記に記しましたので、皆様にはご理解とご協力をお願いいたします。
- ご家族構成などプライベートな面を含めたいろいろな問題点の有無等に関してお尋ねすることがあります。
- 分娩の進行や赤ちゃんの安全を確認するため、必要に応じた内診やモニタリング、あるいはバイタルチェックを行ないます。
- 自然の陣痛を助け、分娩時の児の汚染を防ぐため浣腸を行ないます。
- 子宮頚管(子宮の出口)を軟らかくするため、頚管熟化剤といわれる体内にも存在するホルモン注射を行なうことがあります。
- 緊急時に素早く対応できる様に血管を確保し、通常「ぶどう糖液」を用いてゆっくり点滴を行います。
- 分娩およびその後の処置等がきれいに行なえる様に、軽く陰部の剃毛を行なうことがあります。
- 予定日を超過しても陣痛がいつまでもこない時や、分娩進行のうえで陣痛の力が足りない場合など必要な時は陣痛促進剤を比較的軽いものから徐々に使っていくことがあります。
- 分娩時、赤ちゃんの心音が不安定になる時はお母さんに酸素を投与することがあります。
- 急速に赤ちゃんを出さねばならないとき、あるいは赤ちゃんが出れないで困っている時は会陰(膣の出口)切開を行なうことがあります。
- 子宮口が開いてきても陣痛が弱い時や急いで赤ちゃんを出す必要が迫られたときには『吸引分娩』としてお手伝いすることがあります。
- もちろん、分娩の途中でも母体および赤ちゃんの状態から経膣分娩での危険性が高まるときは、緊急的に「帝王切開」に切り換えることがあります。
- 会陰切開あるいは 縫合(傷をもとへもどす処置)時に、痛みを和らげるための局所麻酔剤や鎮痛剤を用います。
- 分娩時の出血を少なくする目的で、点滴の側管から子宮収縮剤を投与します。
- 縫合にはクロミック糸やバイクリル糸といった溶解糸を用いますので、必ずしも抜糸は必要ありません。
- その後も出血が多く子宮収縮が悪い等の所見があれば、膣内にガーゼ等を入れておくことがあります。
- 分娩後の子宮復古をたすけ、細菌感染を防ぐ等の目的のため、抗生物質、子宮収縮剤および消炎鎮痛剤のおくすりが処方されます。赤ちゃんには影響の少ないものを当然選んでありますので、不都合がなければ心配しないできちんと服薬してください。
以上の様に、赤ちゃんの安全を守りつつスムーズな分娩を心がけるよう、常にいろいろな観察や配慮あるいは処置が必要となる事を説明いたしました。すなわち、基本的には自然分娩といいながらも、決して大昔の「何もしない全く自然なままのお産」をするのではないのです。
実は、自然の営みであるこの妊娠・分娩時のあなたの体の中では「通常では考えられない程の大事態」が起きているのです。この通常考えられない程の大事態の中から元気な赤ちゃんを手にするために最も必要なことは、あなたが落着いて対処し、陣痛が来たら「お母さんが守ってあげるからね」と声をかけながら、あなたの何倍もの苦しみを味わっている赤ちゃんに決して余計な負担をかけずに陣痛をやり過してあげる事なのです。
その経過の中で、あなたの努力で解決できない事態が万が一出現したら私達が全力をあげて応援いたします。さぁ、主役はあなたです。「きっと上手にできる」と信じて一緒に頑張りましょう。