妊婦様方は、お産は大変だろうと思っておられるかもしれませんが、お産はすばらしい感動の体験なのです。お産は、赤ちゃん、母親、そして父親の間の家族としての3つの絆を生み出すものだといわれています。
家族は動物にもあると思われていますが、実際には人間にしかないそうです。すなわち、動物的にただ一緒に生活していれば家族の絆が強くなるというものではありません。お産は家族の絆を強める絶好のチャンスなのです。
いいお産をするために妊娠中に準備することで最も大切なことは、
・・・です。
ストレスは人生のスパイスとも考えられていますが、お産の陣痛は産婦様を苦しめるためにあるのではありません。陣痛はお産が始まった時と、お産の進行の状態を教えてくれるサインです。陣痛は"悪玉"ではなく、産婦様のためにある"善玉"です。
陣痛に不安や恐怖感が伴うから大変なのであって、陣痛だけでしたら耐えられない痛みではありません。お産の陣痛は、愛する人がいて愛される人がいるとなれば決して恐いものではないのです。
生きざまが「生みざま」になるといわれています。お産の陣痛の苦しみは、人生には苦もまた必要であることを教えてくれています。陣痛の苦しみは子供が産まれる喜びを感ずるために必要な苦しみなのです。陣痛は、人のために全力で何かをしてあげるには自己犠牲が必要なことを教えてくれています。
愛とは相手を大事にし自分の大切なものを相手にあげること、すなわち自己犠牲であることを教えてくれています。人間が共生するにはこの自己犠牲が当然必要です。家族の共生にも家族全員のお互いを思いやる自己犠牲が必要です。親になり、大人になるということは我慢強くなること、我慢強くなることとはセルフコントロールができるようになることです。陣痛の苦しみに耐えて辛抱することは、人生の一つの目標として、セルフコントロールの完成があることを学んでいることのように思われます。セルフコントロールの完成は自己表現の完成であり、これが真の自由であり、真の幸福であると考えられます。
陣痛が苦しくても、ギブ・アップしてはいけません。最後まで自分で自分の赤ちゃんを生むのだという意識を持ち続けることが大事です。
陣痛が強くなったら、多少声を出したり、少々取り乱してもよろしいですが、決して陣痛がきているときに力を入れたりしないで、ゆっくり深呼吸をしながらつらい陣痛から赤ちゃんを守ってあげてください。
そして産道が充分に開いたら気持ちを取り直して、医師や助産婦さん達に赤ちゃんを取り上げてもらうのではなく、自分の赤ちゃんを自分の両手でしっかりと抱き上げるような気持ちで、落ち着いて意識を産道に集中し、赤ちゃんの頭が産道を通り抜けるのを感じとるようにしてください。こうすると、自分で自分の赤ちゃんを生んだという手応えを実際に感じ取ることができるでしょう。
このようにして赤ちゃんを生むと、大きな感動を味わえると思います。お産では、「至高体験」という、神秘的な体験、宗教的な体験、強烈な幸福感、歓喜、恍惚そして至福すら感ずる瞬間を体験することができるのです。立花隆氏によると宇宙飛行士も「至高体験」を体験しているそうです。
赤ちゃんは生まれた時から人間としての能力が十分に備っており、目も見えるし、耳も聞こえているといわれております。お産直後に、お母さんが赤ちゃんを抱きしめて、優しい眼差で赤ちゃんの目を見つめてあげたり、ままごとのようにではなく本気で優しく話しかけ、赤ちゃんを十分にかわいがってあげましょう。御主人も、生まれたばかりの赤ちゃんを見ると大きな喜びを感ずると思います。
そうすると、赤ちゃんに対する愛着が強くでき、子育ての動機づけができ、父親として子育ての良いスタートができると思います。お産後3人で楽しい時間を過ごすことが家族の絆を強くする上で大事なことなのです。赤ちゃんが2、3歳になり生意気で自我がでてくる頃までは、両親で赤ちゃんをいっぱいかわいがって欲しいものです。
人間は、大人も子供も、男も女も、最終的には自分の力で1人で生きていくものなのです。だからこそ、母と子の絆を大切にし、また、父と子の絆も必要となります。プロレスのジャイアント馬場でさえ、試合中に苦しくなると心の中で「お母さん」と叫ぶことがあったそうです。
心の中に、お母さんやお父さんがいる人は幸せな人生を送ることができると思います。兄弟でも分かりあえぬことでも親子では分かりあえます。親から子に愛は伝染します。親の愛はありがたいものです。
お産は人生の知恵と愛と勇気を生み出す心の体験です。
(仙台逓信病院産婦人科部長 大橋 一夫 先生(院長の同級生)著「お産のロマン」より)